関連者間取引の「特定事項記載書類」とは?何を書けばいいのかをわかりやすく解説

令和8年度の税制改正で、関連者間取引に関する新しい書類保存のルールができたのをご存知でしょうか。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、親会社・子会社など、一定の資本関係や実質的な支配関係にある法人(関連者)グループ内の取引について、一定の書類を整理・保存しておく必要が生じています。
「新しく何か対応しないといけないのでは」と身構える方もいるかもしれませんが、中身を見ると、全く新しい書類を一から作れという話ではありません。今ある契約書や請求書で足りている部分はそのままでよく、足りない部分だけを補えばよい、という制度です。
この記事では、この制度で具体的に何が変わり、実務として何を書いて、どう保存すればいいのかを、国税庁の公表資料に基づいて詳しく解説していきます。
なお、実際に税務調査でこの書類について確認された場合の対応や、保存が不十分だった場合の青色申告承認取消しとの関係については、別記事で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
この記事の結論
- 関連者間取引について、既に持っている契約書・請求書等で取引内容や対価の計算根拠が分かるのであれば、新たに書類を作る必要はありません。
- 分からない部分(特定事項)がある場合だけ、その部分を補う「特定事項記載書類」を用意すれば足ります。
- 保存が不十分でも、それだけで直ちに費用が経費として認められなくなるわけではありません。
- 令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されている制度です。
(出典:国税庁「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例の運用に当たっての基本的な考え方及び取扱いについて」)
関連者間取引に係る書類の整理保存の特例とは?
令和8年度税制改正で創設された制度で、法人税法施行規則第59条の2・第67条の2に定められています。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
親会社・子会社など、持株関係や実質的な支配関係にある「関連者」との取引について、契約書や請求書に取引の詳細や対価の計算根拠が書かれていないと、取引の実態が外部から把握しにくいという問題意識から作られた制度です。
対象となる取引(特定取引)は、次の2種類です。
- 工業所有権等(特許権・商標権・ノウハウなど)の譲渡・貸付け
- 役務の提供(経営指導料、業務委託、システム利用料など)
いずれも、法人税法第22条第3項第2号に掲げる費用(販売費、一般管理費その他の費用)の額の基因となる取引に限られます。商品の仕入れなど、売上原価に該当する通常の仕入取引は、この特例の対象となる関連者間取引には含まれません。

全ての取引について新しく書類を作る必要はある?
ありません。事務運営指針では、取引の内容及び性質に照らして通常求められる範囲を超える詳細な資料の一律の保存等を求める趣旨のものではないと明記されています。
判断の手順は次の通りです。
- 契約書・請求書・見積書・計算資料など、今ある書類を全て並べる
- それらを総合して見たときに、対価の算定根拠や取引内容が分かるかを確認する(1枚の書類で完結している必要はない)
- 移転価格税制のローカルファイルを作成している場合、そこに必要な記載があれば重複して別の書類を作る必要はない(対象者は限られます。)
- 上記で分からない部分(=特定事項)がある場合だけ、その部分を補う「特定事項記載書類」を用意する
つまり、書類をゼロから全て新規作成するのではなく、今ある書類の不足部分を補うという発想の制度です。
特定事項記載書類は、どの程度詳しく書けばいい?
基準は「第三者が見て、取引の実態を客観的に把握できる程度」です。
- 対価が「一式」としか書かれていない、取引内容が抽象的すぎる、というレベルは不十分とされます。
- 一方で、誰が見ても「この金額はこう計算された」と分かる程度まで書ければ十分です。
- 取引の内容や性質から通常求められる範囲を超えて、過度に詳細な資料を一律に作成する必要はない
過剰に作り込む必要はない、という点が事務運営指針でも明言されています。
工業所有権等の取引では、具体的に何を書けばいい?
特許権・商標権・ノウハウなどの工業所有権等の取引については、次の情報を記載します。
- 当該権利の内容・範囲・存続期間
- 自社の事業における当該権利の利用の内容
- 対価の額及びその算定の基礎となる計算方法
役務の提供の取引では、具体的に何を書けばいい?
役務提供は、内容に応じて3つのパターンに分けて記載事項が示されています。
費用分担型(グループ共通の活動費用を分担するケース)
- 活動の内容、実施方法・場所・回数
- 自社が受ける利益の内容
- 負担額の算出根拠
経営管理・指導型(親会社からの経営指導料など)
- 役務の具体的内容
- 提供の態様、頻度・期間
- 対価の計算方法
その他の役務提供
- 提供の日時・場所・期間・回数
- 具体的内容
- 対価の内訳と計算方法
自社の取引がどのパターンに近いかを見極め、該当する項目を埋めていくのが実務的な進め方です。
特定事項記載書類は、いつまでに用意して、何年保存すればいい?
特定事項記載書類は、その取引が行われた事業年度の確定申告書の提出期限までに取得または作成し、整理しておく必要があります。保存期間は、起算日(原則として事業年度終了日の翌日から一定の月数を経過した日(基本的にその青色申告法人の確定申告書の提出期限))から7年間、納税地又は関連者間取引に係る国内の事務所等で保存します。
なお、特定事項記載書類に記載すべき事項を電子取引によって取得した場合には、電子帳簿保存法の規定に基づいてその電子データを電磁的記録として保存する必要があります。
親会社側で書類を一元管理している場合でも、税務調査時に遅滞なく入手・提示できる体制が整っていれば、自社で保存されているものとして扱われるケースがあります。ただし、これはあくまで「入手・提示できること」が前提です。
まとめ
ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
- 令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、関連者間取引について書類の整理保存の特例が適用されている
- 対象は工業所有権等の譲渡・貸付けと役務の提供(いずれも販管費等に関わるもの)で、売上原価に該当する通常の仕入取引は対象外
- 今ある契約書・請求書等で取引内容や対価の算定根拠が確認できれば、新たな書類作成は不要
- 確認できない部分(特定事項)だけを、第三者目線で分かる程度に補えばよい
- 工業所有権等の取引、役務提供の3パターン(費用分担型/経営管理・指導型/その他)ごとに、記載すべき項目が示されている
- 申告期限までに整理し、起算日から7年間、納税地等で保存する
「うちの関連者間取引は、この基準を満たしているか」を確認する第一歩は、今ある契約書・請求書を並べて、対価の算定根拠が読み取れるかどうかをチェックすることです。もし判断に迷う場合や、実際に税務調査で確認された際の対応については、専門家にご相談いただくことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q1. 関連者間取引とは何ですか?
持株関係や実質的な支配関係など、特殊の関係にある法人(関連者)との間で行う取引のことです。内国法人・外国法人を問わず対象になり得ます。
Q2. 特定事項記載書類は必ず作成しなければなりませんか?
いいえ。既存の契約書・請求書・見積書・計算資料などを総合して取引内容や対価の算定根拠が確認できる場合は、新たな書類の作成は不要です。確認できない部分(特定事項)がある場合にのみ、その部分を補う書類が必要になります。
Q3. どの程度詳しく書けばいいですか?
第三者が見て取引の実態を客観的に把握できる程度で足ります。過剰に作り込む必要はない、というのが国税庁の事務運営指針でも明言されているポイントです。
Q4. 保存期間はどれくらいですか?
起算日(原則、事業年度終了日の翌日から一定の月数を経過した日(基本的にその青色申告法人の確定申告書の提出期限))から7年間、納税地等で保存する必要があります。
Q5. 商品の仕入れも対象になりますか?
商品の仕入れであっても、売上原価に該当する通常の仕入取引は、この特例の対象外です。
ただし、対象となるかどうかは、その取引が法人税法第22条第3項第2号に掲げる費用の額の基因となるものかどうかで判断します。
Q6. 親会社が書類を一元管理していても問題ありませんか?
税務調査の際に遅滞なく入手・提示できる体制が整っていれば、自社での保存があるものとして扱われるケースがあります。入手・提示ができないと判断された場合は、保存が不十分な場合の対応が求められることになります。
Q7. いつから適用されている制度ですか?
令和8年度税制改正で創設され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。
著者情報
熊坂開基税理士事務所スタッフ:熊倉佑菜
簿記2級保持、税理士試験勉強中
更新日:2026年9月30日
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務判断については、必ず所轄の税務署または税理士にご確認ください。
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