税理士以外の士業との契約は必要か?結論と判断基準を解説

士業との契約、本当に必要?
会社を経営していると「社労士と契約した方がいいですよ」「行政書士に依頼しましょう」といった話を聞く機会があります。でも、本当に契約が必要なのか、それとも自社で対応できるのか、判断に迷っている方も多いのではないでしょうか。
結論から言えば、その士業の独占業務を自社で解決できないなら、契約が必要です。
もっと言うと、その士業の独占業務について「自社(役員・従業員)が適法かつ正確に対応できない場合」に限り、契約を検討すべき
という考え方になります。
独占業務であっても、
- 自社の役員・従業員が
- 報酬を受け取らず
- 自社の手続として
書類を作成・提出すること自体は、法律違反ではありません。
しかし、他人が勝手に独占業務を行うと違法になり逮捕事例も出ています。
この記事では、税理士とともに企業が関わることの多い「社労士」「行政書士」「司法書士」の3つの士業に焦点を当て、独占業務と契約の判断基準を具体的に解説します。
士業の「独占業務」とは?なぜ契約が必要なのか
士業には法律で定められた「独占業務」があります。独占業務とは、その資格を持つ人だけが行える業務のこと。資格のない人が報酬を得て行うと、法律違反になってしまいます。
たとえば、社労士以外の人が報酬をもらって労働保険の申請書を作成すると、社会保険労務士法違反で1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります(社労士法第32条の2第1項第6号)。自社で書類を作成して自分で提出することは可能ですが、複雑な法令知識が必要で、ミスがあると受理されないリスクがあります。
つまり、独占業務が発生する場合、自社で正確に対応できなければ、その士業との契約が必要ということです。
社会保険労務士(社労士):従業員を雇うなら必須
社労士の独占業務とは?
社労士の独占業務は、社会保険労務士法第二条で定められており、労働社会保険諸法令に基づく申請書類の作成、提出代行、労働社会保険に関する帳簿書類の作成などが含まれます。
具体的には、雇用保険・健康保険・厚生年金保険の加入手続き、労災保険の申請、助成金申請書の作成などが該当します。(社会保険労務士法第二条)
【逮捕事例】税理士が社労士法違反で逮捕
2025年10月、大阪府警は、無資格で社会保険労務士の業務をしたとして、大阪市の税理士法人代表の税理士(39)と、法人従業員の行政書士(46)を社会保険労務士法違反容疑で逮捕しました。
2人は共謀して、社労士資格がないのに顧問先3社からの依頼で計4万円の報酬を得て、大阪労働局などへの労働保険の申告業務を代行した疑いが持たれています。大阪府社労士会からの申告で不正が発覚しました。
捜査の結果、2022年4月以降、同様の業務を340件ほど引き受け、計約400万円を得ていたことが判明しています。(読売新聞オンライン)
この事例から分かること:税理士や行政書士であっても、社労士の独占業務を行えば犯罪になります。「顧問先のためによかれと思って」という理由は通用しません。
どんな会社に契約が必要?
契約検討のタイミング
- 従業員を1人でも雇用している会社
- 毎月のように入退社がある会社
- 助成金を活用したい会社
- 就業規則や賃金規程を整備したい会社
具体例:成長企業の労務管理
創業3年目のIT企業A社は、従業員が5人から15人に増えました。毎月のように入退社があり、社会保険の資格取得・喪失手続きだけで月10時間以上かかるようになりました。さらに、残業代の計算方法や有給休暇管理について従業員から質問が増え、経営者が対応に追われています。
就業規則も作成しておらず、労働基準監督署から作成・届出の指導を受けました。A社の経営者は労務管理の知識が乏しく、自社で適切な対応ができないため、社労士との顧問契約が必要です。
費用の目安
- 顧問契約:月額2万円〜5万円(従業員数により変動)
- スポット依頼:就業規則作成10万円〜、助成金申請は成功報酬で助成額の15〜20%程度
行政書士:許認可と補助金申請のプロ
行政書士の独占業務とは?
行政書士の独占業務は、行政書士法第1条の2および第1条の3で定められており、官公署に提出する書類の作成、権利義務に関する書類の作成、事実証明に関する書類の作成などが該当します。
具体的には、建設業許可申請、飲食店営業許可申請、補助金申請書の作成、会社設立時の定款作成、契約書作成などが含まれます。
どんな会社に契約が必要?
契約検討のタイミング
- 建設業、運送業、飲食業など許認可が必要な業種
- 補助金申請を頻繁に行う会社
- 会社設立や定款変更を予定している会社
- 外国人雇用のビザ申請が必要な会社
具体例1:建設業許可が必要な会社
個人事業から法人化した建設会社B社は、500万円以上の工事を受注するため、建設業許可が必要になりました。許可申請には、経営業務管理責任者の設置、専任技術者の設置、財産的基礎(500万円以上の資金調達能力)などの要件を満たし、それを証明する数十種類の書類が必要です。
さらに、許可取得後も5年ごとの更新や、毎年の決算変更届が必要です。
自社で申請書類を正確に作成できないため、行政書士との契約が必要です。
具体例2:ものづくり補助金を活用する製造業
製造業C社は、新しい設備導入のため「ものづくり補助金」に応募します。ものづくり補助金は、中小企業等が行う革新的なサービス開発や試作品開発、生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援する制度です。
補助金申請には、事業計画書、経費明細、見積書など多数の書類が必要で、採択されるには技術的な優位性や事業化の実現性を示す説得力のある事業計画が求められます。
C社は年に2〜3回、設備投資のタイミングでものづくり補助金を活用したいと考えていますが、申請書類の作成に毎回50時間以上かかり、本業に支障が出ています。
補助金申請書の作成は行政書士の独占業務であり、頻繁に申請するため顧問契約が有効です。
(ものづくり補助金とは?)
費用の目安
- 建設業許可:新規申請15万円〜、更新7万円〜、決算変更届3万円〜
- 補助金申請:成功報酬で補助額の10〜15%程度
- 顧問契約:月額3万円〜(許可管理や補助金申請サポート)
司法書士:登記のプロフェッショナル
司法書士の独占業務とは?
司法書士の独占業務は、司法書士法第3条で定められており、登記または供託に関する手続きの代理、法務局に提出する書類の作成などが該当します。
具体的には、不動産登記(所有権移転、抵当権設定・抹消)、会社の商業登記(設立、役員変更、本店移転、解散)などが含まれます。
どんな会社に契約が必要?
契約検討のタイミング
- 不動産を購入・売却する会社
- 役員変更や本店移転など、登記事項の変更がある会社
- 融資を受けて抵当権を設定する会社
具体例:会社の役員変更登記
株式会社D社は、取締役の任期満了に伴い、役員変更登記が必要になりました。株式会社の取締役の任期は原則2年で、任期満了後に再任する場合でも登記が必要です。
役員変更登記には、株主総会議事録、就任承諾書、印鑑証明書などの書類を添付し、変更が生じた日から2週間以内に法務局へ申請する必要があります。
期限内に登記しないと、会社法第976条により、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。また、登記簿の情報が最新でないと、取引先や金融機関からの信用を失うリスクもあります。
自社で正確かつ期限内に登記できないため、司法書士に依頼が必要です。
司法書士は、融資を受けて抵当権を設定する会社の下に契約締結が多いです。
そのため、法的顧問の役割を求めるなどがない場合はスポット契約でも良いかもしれません。
費用の目安
- 不動産登記:所有権移転10万円〜、抵当権設定5万円〜(登録免許税別)
- 商業登記:役員変更3万円〜、本店移転5万円〜、会社設立10万円〜(登録免許税別)
「自社でできる」の判断基準
ここで重要なのは、「自社でできる」とはどういう状態かという点です。単に書類を作成できるだけでは不十分で、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 法令を正確に理解している:関連法令を読み解き、要件を満たせる
- 最新の法改正に対応できる:改正情報を常にキャッチアップしている
- ミスなく書類を作成できる:不備がなく一度で受理される精度
- 行政からの問い合わせに適切に対応できる:補正や追加資料の要求に応じられる
- 時間とコストが本業に影響しない:手続きに時間を取られても業績が落ちない
たとえば、建設業許可の申請を自社で行う場合、初めてなら100時間以上の作業時間がかかることもあります。その時間を本業に使った方が、結果的に利益が大きくなるケースが大半です。
契約しないとどんなリスクがある?
法律違反のリスクはある?
無資格者が報酬を得て独占業務を行うと、各法律で罰則が規定されています。先ほど紹介した逮捕事例のように、税理士や行政書士であっても、社労士の独占業務を行えば犯罪になります。
- 社労士法違反:1年以下の懲役または100万円以下の罰金(社労士法第32条の2第1項第6号)
- 行政書士法違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金
- 司法書士法違反:1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(司法書士法第78条)
申請が却下されることはある?
専門知識がないまま申請すると、書類の不備で却下や差し戻しになることがあります。建設業許可が下りなければ大型工事を受注できず、数百万円のビジネスチャンスを逃します。補助金も不採択になれば、設備投資計画そのものが頓挫する可能性があります。
登記漏れで過料が科される?
会社の役員変更や本店移転を登記せず放置すると、会社法第976条により、代表者個人に100万円以下の過料が科される可能性があります。これは刑事罰ではありませんが、会社の信用を損ねる事態です。
よくある質問
Q1. 税理士だけで十分じゃないの?
A. 税理士の独占業務は税務申告、税務代理、税務相談に限られます。労務管理(社労士)、許認可申請(行政書士)、登記(司法書士)は、それぞれ専門の士業に依頼する必要があります。税理士が他の士業の独占業務を行うことは法律違反です。
Q2. 顧問契約とスポット契約、どちらがいい?
A. 頻繁に業務が発生する場合は顧問契約、単発の業務はスポット契約が適しています。毎月の労務管理や年数回の補助金申請なら顧問契約、単発の登記や1回限りの許可申請ならスポット契約が向いています。
Q3. 士業への報酬は高くない?
A. 一見コストに見えますが、専門知識による質の高い成果、法的リスクの回避、本業に集中できる時間の確保を考えれば、十分に価値のある投資です。自力では気づかない助成金や補助金の提案も受けられます。
Q4. 複数の士業と契約する必要がある?
A. 会社の業務内容によります。たとえば、従業員がいて建設業許可も必要な建設会社なら、社労士と行政書士の両方が必要です。製造業で従業員を雇用し、補助金を活用するなら、やはり社労士と行政書士が必要になります。
Q5. 士業との契約はいつから始めるべき?
A. 独占業務が発生する前、または自社での対応が難しいと感じた時点で相談するのがベストです。問題が起きてからでは対応が後手に回り、許可が間に合わない、助成金の申請期限を過ぎる、登記の期限を超えて過料が科されるといった事態になりかねません。
まとめ:独占業務が自社で解決できないなら契約を検討すべき
税理士以外の士業との契約が必要かどうかは、その士業の独占業務が自社で解決できるかどうかで判断します。
- 従業員を雇用している → 労務管理や助成金申請が自社でできない → 社労士が必要
- 許認可や補助金申請が必要 → 申請書類を自社で正確に作成できない → 行政書士が必要
- 不動産取引や登記が発生 → 登記申請が自社でできない → 司法書士が必要
まずは自社の業務を振り返り、どんな専門業務が発生するかを確認しましょう。そのうえで、自社で対応できない独占業務があれば、該当する士業との契約を検討するのが賢明です。
士業への報酬は、本業に集中できる時間の確保、法的リスクの回避、専門知識による質の高い成果を考えれば、十分に価値のある投資と言えるでしょう。特に、創業期や成長期の企業にとって、経営者の時間は最も貴重な経営資源です。専門家に任せられることは任せて、本業の成長に注力することが、長期的な企業の発展につながります。
著者情報
熊坂開基税理士事務所スタッフ:熊倉佑菜
簿記二級保持、税理士試験勉強中
更新日:2026年1月23日


